小説にみる明治・大正・昭和(戦前)の教育あれこれ

小説に描かれた明治・大正・昭和戦前の教育をあれこれ気ままに論じていきます。漱石『坊っちゃん』は「『坊っちゃん』に見る明治の中学校あれこれ」(https://sf63fs.hatenablog.com/)へ。

三浦綾子「銃口」その1 作者・作品と時代背景

 

 

【作者】三浦綾子
 (1922-1999)旭川生れ。17歳で小学校教員となったが、敗戦後に退職。間もなく肺結核脊椎カリエスを併発して13年間の闘病生活。病床でキリスト教に目覚め、1952(昭和27)年受洗。1964年、朝日新聞の一千万円懸賞小説に『氷点』が入選、以後、旭川を拠点に作家活動。主な作品に『塩狩峠』『道ありき』『天北原野』『銃口』など。1998(平成10)年、旭川三浦綾子記念文学館が開館。(新潮社・著者プロフィールhttps://www.shinchosha.co.jp/writer/2869/

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新潮社・著者プロフィール

【作品】  連載 … 本の窓1990年1月〜1993年8月
出版 … 小学館1994年3月(上下2巻)
現行 … (上下2巻)小学館文庫・角川文庫・小学館電子全集

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(上)
人間の本質に迫る三浦文学の最高傑作
昭和元年、北森竜太は、北海道旭川の小学4年生。父親が病気のため納豆売りをする転校生中原芳子に対する担任坂部先生の温かい言葉に心打たれ、竜太は、教師になることを決意する。竜太の家は祖父の代からの質屋。日中戦争が始まった昭和12年、竜太は望んで炭鉱の町の小学校へ赴任する。生徒をいつくしみ、芳子との幸せな愛をはぐくみながら理想に燃える二人の背後に、無気味な足音……それは過酷な運命の序曲だった。
「第1回井原西鶴賞」受賞作品。三浦綾子、生前最後の小説。
1996年(平成8年)、NHKで「銃口 竜太の青春」としてテレビドラマ化され、作品が第14回ATP賞‘97奨励賞を受賞した。

(下)
 激動の時代を描く三浦綾子の最新長編小説
昭和16年、思いもよらぬ治安維持法違反の容疑で竜太は、7か月の独房生活を送る。絶望の淵から立ち直った竜太に、芳子との結婚の直前、召集の赤紙が届く。入隊、そして20年8月15日、満州から朝鮮への敗走中、民兵から銃口をつきつけられる。思わぬ人物に助けられやっとの思いで祖国の土を踏む。再会した竜太と芳子の幸せな戦後に、あの黒い影が消えるのはいつ......過酷な運命に翻弄されながらも人間らしく生き抜く竜太のドラマ。
  小学館文庫解説https://www.shogakukan.co.jp/books/09402181

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青年座ホームページより、「銃口ー北森竜太の青春」の一場面)

 

■ 「事件」までの竜太と時代背景

 1917    (大6)        
  ロシア十一月革命→ソビエト政権樹立
1918    (大7)        2月、竜太誕生    
1922    (大11)    4歳    
  4月25日三浦綾子旭川市に生まれる
  7月15日、日本共産党非合法に結成
1923    (大12)    5歳    
  9月1日、関東大震災 朝鮮人社会主義者の虐殺起こる
1924    (大13)    6歳    竜太、旭川・大栄小学校入学    
1925    (大14)    7歳    治安維持法普通選挙法成立
1926    (大15)    8歳    
  12月25日、大正天皇崩御
1927    (昭2)    9歳    2月7日、御大葬    
  竜太、綴り方の授業で担任の河内先生に殴られる
1928    (昭3)    10歳    
  6月、治安維持法改悪(死刑・無期懲役を追加)

  7月、内務省特別高等警察課設置
1929    (昭4)    11歳    
  世界恐慌起こる
  北方教育社結成、生活綴方運動おこす
1930    (昭5)    12歳    3月、竜太、大栄小学校卒業    
4月、竜太、旭川中学校入学    
1931    (昭6)    13歳    
    9月、満州事変→満州国建国
1932    (昭7)    14歳         
1933    (昭8)    15歳    
  2月、小林多喜二、築地署に検挙、虐殺
  3月、国際連盟脱退
1934    (昭9)    16歳    9月、北森家、タコ部屋から逃げ出した金俊明をかくまう    1935    (昭10)    17歳    
  北海道綴方教育連盟発足
3月、竜太、旭川中学校卒業    
4月、竜太、旭川師範学校二部入学    
1936    (昭11)    18歳    
  2・26事件
1937    (昭12)    19歳    3月、竜太、師範学校卒業    
4月1日、竜太、旭川第七師団入隊    
  7月、盧溝橋事件、日本の中国への全面侵略
8月31日、竜太、旭川第七師団除隊(伍長)    
9月、竜太、幌志内小学校に赴任(高等科1年生担任)    
  12月、日本軍が南京を占領(南京大虐殺
1938    (昭13)    20歳    

 3月24日、竜太、芳子とともに札幌の綴り方連盟の会合に出席    
  4月、国家総動員法公布
1939    (昭14)    21歳    
  9月、ドイツ軍がポーランドに侵入→第二次世界大戦
  三浦綾子 旭川市立高等女学校卒業
  空知郡歌志内町・神威尋常高等小学校に代用教員として赴任
1940    (昭15)    22歳    
  9月、日独伊三国同盟
  10月、大政翼賛会発会式
  12月、『北方綴方』『生活学校』同人検挙(北海道第1次検挙)
1941    (昭16)    23歳    

  1月9日、竜太、岩見沢本署に連行される    

前進座ホームページより
http://www.zenshinza.com/stage_guide/2007juko/juko/nenpyo.htm

 

※次に取り上げる作品を探していたとき、昨年に購入した綾目広治『教師像ー文学に見る』(新読書社、2015年)の目次に「第4章 労働運動・社会運動と教師たち 四 時代の悪気流に抗う教師」とあり、「北海道綴方教育連盟事件」を扱った三浦綾子さんの小説「銃口」があると知りました。

さっそく図書館(主婦の友社版)で借りて、四百数十ページにも及ぶ大作でしたが、一気に読み通すことができました。