小説にみる明治・大正・昭和(戦前)の教育あれこれ

小説に描かれた明治・大正・昭和戦前の教育をあれこれ気ままに論じていきます。漱石『坊っちゃん』は「『坊っちゃん』に見る明治の中学校あれこれ」(https://sf63fs.hatenablog.com/)へ。

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「二十四の瞳」⑥ 日帰りの修学旅行

六年生の秋の修学旅行は、時節がらいつもの伊勢まいりをとりやめて、近くの金毘羅(こんぴら)ということにきまった。それでも行けない生徒がだいぶいた。働きにくらべて倹約な田舎のことである。宿屋にはとまらず、三食分の弁当をもってゆくということで、…

「二十四の瞳」⑤ 赤い教師への弾圧

それは、はげしい四年間であったが、彼らのなかのだれがそれについて考えていたろうか。あまりに幼い彼らである。しかもこの幼い者の考えおよばぬところに、歴史はつくられていたのだ。四年まえ、岬の村の分教場へ入学したその少しまえの三月十五日、その翌…

「二十四の瞳」④ 唱歌の授業 ー女先生と男先生ー

■ 浜辺で唄った歌は・・・ 二学期初日、前夜の嵐で岬の村はかなりの被害を受けていました。大石先生は子どもたちと道路に転がっている石を取り除く作業をしていたのですが、一人の子どもの面白おかしい話に思わず笑ってしまいます。それを目撃したよろず屋のお…

「二十四の瞳」③複式学級 板木

分教場の先生は二人で、うんと年よりの男先生と、子どものように若い女先生がくるのにきまっていた。それはまるで、そういう規則があるかのように、大昔からそうだった。職員室のとなりの宿直室に男先生は住みつき、女先生は遠い道をかよってくるのも、男先…

「二十四の瞳」② 「女学校の師範科を出た正教員のぱりぱり」は自転車に乗って現れた!

名作でたどる明治の教育あれこれ: 文豪の描いた学校・教師・児童生徒 作者:藤原重彦 Amazon 道みちささやきながら歩いてゆく彼らは、いきなりどぎもをぬかれたのである。場所もわるかった。見通しのきかぬ曲がり角の近くで、この道にめずらしい自転車が見え…

坪井栄「二十四の瞳」① 昭和3年 岬の分教場

一 小石先生 十年をひと昔というならば、この物語の発端は今からふた昔半もまえのことになる。世の中のできごとはといえば、選挙の規則があらたまって、普通選挙法というのが生まれ、二月にその第一回の選挙がおこなわれた、二か月後のことになる。昭和三年…