小説にみる明治・大正・昭和(戦前)の教育あれこれ

小説に描かれた明治・大正・昭和戦前の教育をあれこれ気ままに論じていきます。漱石『坊っちゃん』は「『坊っちゃん』に見る明治の中学校あれこれ」(https://sf63fs.hatenablog.com/)へ。

2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

渡辺淳一『花埋み』① 東京女子師範

この『花埋み』(はなうずみ)は、日本最初の女医である荻野吟子の生涯を題材とした作品です。 明治八年十一月、東京女子師範は東京本郷お茶の水に開校した。この学校はのち東京女子高等師範と改められ、現在のお茶の水女子大学に至っている。 第一期生はぎ…

田山花袋『田舎教師』⑤ 日露戦争下の小学校

日露開戦、八日の旅順と九日の仁川とは急雷のように人々の耳を驚かした。紀元節の日には校門には日章旗が立てられ、講堂からはオルガンが聞こえた。(中略)交通の衝に当たった町々では、いち早く国旗を立ててこの兵士たちを見送った。停車場の柵内には町長…

趣味あれこれ 「東京混声+神戸市混声」

待ちに待ったこの演奏会❗️ 草刈りは昼までに終えて、五時過ぎから出かけました。 東混は2年前に茨木市へ聴きに行って以来。 (神戸市混声は加東混声で「第9」をやったときに、賛助出演してもらいました。) 内容コメントは省略して、とにかくこの顔ぶれでS…

田山花袋『田舎教師』④ 講習会と夏休み

■ 教員講習会 次の土曜日には、羽生の小学校に朝から講習会があった。校長と大島と関と清三と四人して出かけることになる。大きな講堂には、近在の小学校の校長やら訓導やらが大勢集まって、浦和の師範から来た肥った赤いネクタイの教授が、児童心理学の初歩…

田山花袋『田舎教師』③ 天長節

天長節には学校で式があった。学務委員やら村長やら土地の有志者やら生徒の父兄やらがぞろぞろ来た。勅語の箱を卓テーブルの上に飾って、菊の花の白いのと黄いろいのとを瓶にさしてそのそばに置いた。女生徒の中にはメリンスの新しい晴れ衣を着て、海老茶色…

田山花袋『田舎教師』② 郡視学

郁治の父親は郡視学であった。(中略) 家が貧しく、とうてい東京に遊学などのできぬことが清三にもだんだん意識されてきたので、遊んでいてもしかたがないから、当分小学校にでも出たほうがいいという話になった。今度月給十一円でいよいよ羽生(はにゅう)…

田山花袋『田舎教師』① モデル小林秀三のこと

名作でたどる明治の教育あれこれ: 文豪の描いた学校・教師・児童生徒 作者:藤原重彦 Amazon 作品の名前はよく知られていても、読まれた方はそう多くないでしょうから、作品と作者の解説文、それに冒頭部分を挙げておきたいと思います。 日露戦争に従軍して帰…

正宗白鳥 『入江のほとり』③ 英語の独学

広い机の上には、小学校の教師用の教科書が二三冊あって、その他には「英語世界」や英文の世界歴史や、英文典など、英語研究の書籍が乱雑に置かれている。洋紙のノートブックも手許に備えられている。彼れは夕方学校から帰ると、夜の更けるまで、めったに机…

正宗白鳥『入江のほとり』② 代用教員その2

「辰は英語を勉強してどうするつもりなのだ。目的があるのかい」冬枯の山々を見わたしていた栄一はふと弟を顧みて訊いた。 ブラックバードの後を目送しながら、「飛ぶ」に相当する動詞を案じていた辰男は、どんよりした目を瞬きさせた。すぐには返事ができな…