小説にみる明治・大正・昭和(戦前)の教育あれこれ

小説に描かれた明治・大正・昭和戦前の教育をあれこれ気ままに論じていきます。漱石『坊っちゃん』は「『坊っちゃん』に見る明治の中学校あれこれ」(https://sf63fs.hatenablog.com/)へ。

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

久米正雄『父の死』② 「御真影に殉死」

その明くる日父は突然自殺して了つた。 こんな事も危惧されてゐたのだが、まさかと打消してゐた事が事実となつて家人の目前に現はれて了つた。家人は様子が変だと云ふので、出来るだけの注意もし、家の中の刀剣なぞは知らないやうに片づけて置いた。併し父…

久米正雄『父の死』① 「御真影」

『父の死』 作者数え8歳の時、校長をしていた父の学校が失火。校舎とともにご真影(天皇の写真)も焼失した。その責任を感じ父は割腹自殺をする。その事件を素材とした作品。 その明くる朝、私が起きた時父はまだ帰つてゐなかつた。私は心痛で蒼ざめてゐる…

井上靖『あすなろ物語』② 「学芸会と鉄拳制裁」その2

(鮎太は学芸会で一時間にわたって、英語の暗誦をおこなった。) 学芸会が終わって講堂を出ると、無数の讃嘆と好奇の眼が自分に注がれているのを、鮎太は感じた。 教室へ戻って、鞄を肩にして、それからそこを出て、家へ帰るために運動場をつっ切ろうとした…

井上靖『あすなろ物語』① 「学芸会と鉄拳制裁」その1

『あすなろ物語』 天城山麓の小さな村で、血のつながりのない祖母と二人、土蔵で暮らした少年・鮎太。北国の高校で青春時代を過ごした彼が、長い大学生活を経て新聞記者となり、やがて終戦を迎えるまでの道程を、六人の女性との交流を軸に描く。明日は檜にな…

『しろばんば』その3「中学受験に向けて」

新しい校長が来て十日程して、洪作は稲原校長に呼ばれた。校長室へ行くと、今夜から毎晩受験準備のため、渓合の温泉旅館の一つに下宿している犬飼という教師のもとに勉強に行くようにとのことだった。犬飼というのは稲原校長より二、三か月前に、この学校に…

『しろばんば』その2 湯ヶ島の教師たち

九月になって二学期が始まると、洪作は榎本(えのもと)という新しく湯ヶ島の小学校に赴任してきた師範出の教員のところへ、毎夜のように勉強にやらされた。榎本は部落に三軒ある温泉旅館の中で一番大きい渓合楼(たにあいろう)の一室に寝泊まりしていたの…

井上靖『しろばんば』その1 「通知簿と袴」

一学期の終わる最後の日は、いつもこの日に通知簿(成績表)を貰うので洪作はよそ行きの着物を着せられ、袴(はかま)を穿(は)かされ、先生から貰った通知簿を包む大型のハンケチを持たされた。 洪作にとっては学期末の通知簿を貰う日は辛い日であった。袴…

趣味あれこれ 第322回「西明石・浪漫笑」

毎月第二金曜日の夜は、西明石駅近くの酒屋さん「HANAZONO」の地下ライブハウス(50名収容)で開かれている見出しの落語会へ通い始めて三年が経ちました。 昨夜の演目は ・笑福亭乾瓶さん 「大安売り」 (鶴瓶さんの一番新しいお弟子さんで、年季明け間近と…